2016ジャパンパラ水泳競技大会観戦記

 

7月18日・19日、横浜国際プールにて行われた、2016ジャパンパラ水泳競技大会。全国から精鋭が集まる今大会にはたくさんの観客が詰めかけ、会場は熱気に包まれた。IMG_6804

両日とも午前に予選、午後に決勝が行われたうえ、2日連続の出場となる選手も多かった。しかし、どの選手も疲れを感じさせず、力強い泳ぎを披露。大会記録や日本記録、アジア記録が数多く樹立され、そのたびに歓声が飛び交った。リオデジャネイロ・パラリンピックに向け最後の大会となる今大会には、日本代表選手19名も出場。圧巻の泳ぎを見せた。

代表チームのキャプテンを務める山田拓朗選手は、50m自由形(S9)と100m自由形(S9)で日本新記録を樹立。北京・ロンドンパラリンピックでは惜しくもメダルを逃したが、リオでのメダル獲得に向け着実に力をつけてきた。確かなその泳ぎで、チームを引っ張っていくに違いない。

同じく北京・ロンドンの経験がある木村敬一選手も、100mバタフライ(S11)で大会記録を更新する活躍を見せた。ロンドンでは同種目で銅メダル、100m平泳ぎで銀メダルを獲得。リオでの泳ぎには世界中の注目が集まる。子供の頃から様々なスポーツに取り組んできたという木村選手。全盲である彼にとって決して簡単なことではなかったが、専用の器具を使ってスキーを楽しんだ幼少時代。自転車にも乗り、地面の形を覚えることで操縦をした。世界を制す木村選手の強さは、そんなアクティブな生活の中で培われたのかもしれない。

知的障がいを持った選手は数多い。その中で、津川拓也選手は100m背泳ぎ(S14)で自己ベストと同時に大会新記録をマークし、優勝。リオに向けて『パラリンピックの出場は2回目なので、メダルを目指して頑張ります』と意気込んだ。

また、今大会で特に注目を集めたのが成田真由美選手。45歳にして、50m自由形(S5)と200m自由形(S5)の2種目で日本記録を塗り替えた。アトランタ大会から北京大会まで、金15個を含む計20個のメダルを獲得している成田選手。リオ大会もまた、彼女の圧倒的な強さに期待が懸かる。

IMG_6815一方で、パラリンピック初出場となる若手選手の活躍も光る。トヨタ自動車のCMでお馴染み、大学2年生の一ノ瀬メイ選手。50m自由形(S9)、200m個人メドレー(SM9)、100mバタフライ(S9)に出場し、全種目を制した。

IMG_6821代表チーム最年少の17 歳、池愛里選手も同じく全種目で優勝。200m個人メドレー(SM10)で日本新記録、100m平泳ぎ(SB9)、100m背泳ぎ(S10)で大会新記録を樹立した。しかし、自己評価は厳しい。得意の100m背泳ぎでは予選から決勝でタイムを落としてしまい、『練習でできていることができなかった』と悔しさをにじませた。178cmの長身を生かした泳ぎが彼女の魅力。リオでは7種目に出場予定だが、全ての種目で自己ベスト、100m背泳ぎではメダルを目指す。

様々な障害、様々な経験。それぞれのバックグラウンドを持った選手たちが、同じ舞台で輝ける。それが、パラ水泳の魅力。固い意志を胸に世界に挑む彼らは、間違いなく日本の誇りだ。

 

記:広報インターン 鈴木 優子(慶應義塾大学慶應スポーツ新聞会)

中部大会観戦記

 

7月3日、第23回中部障がい者水泳選手権大会が愛知県口論議運動公園プールで行われた。この大会には、リオ・デ・ジャ%e4%b8%ad%e9%83%a8%ef%bc%91ネイロパラリンピック代表に内定した選手が4名出場。それぞれ圧巻の泳ぎを見せ、会場を大いに沸かせた。代表選手の他にも、好記録を残そうと数多くの選手がエントリーし、計128組ものレースが行われた。随所で熱戦が繰り広げられた今大会は盛況のうちに閉幕した。

 

まず初めに会場をどよめかせたのは、女子400m自由形に出場した北野安美紗(S14/個人)だ。スタートに成功し序盤から独走態勢に入ると、最後までスピードは衰えることはなく、なんと「M3」(*)における大会新記録のタイム(4分58秒45)でフィニッシュ。代表選手ではない北野だが、圧巻の泳ぎで存在感を放った。

続いて男子400m自由形には、リオパラリンピック代表選手の中島啓智(SM14/花見川SC)が登場。圧倒的なスピードでフィニッシュすると、4分17秒65の「M4」(*)における日本新記録を叩き出した。目標タイムを『4分20秒以内』に設定していたという中島は、この結果に満足した表情を見せた。このレースでは、『300m以降も体力がもった』ことが功を奏し、好タイムにつながったと振り返った。次の種目、女子200m個人メドレーでは同じくリオパラリンピック代表選手の森下友紀(SM9/千葉ミラクルズ)が登場した。得意のバタフライでタイムを伸ばした森下は、SM9における大会新記録(2分56秒88)を樹立。しかし本人は、この記録に満足のいかない表情を見せた。『後半はバテてしまって、スピードを出すことが出来ませんでした。ちょっともどかしいなと。本当はもっと良いタイム、54秒くらいは出したかったなという気持ちがあります』。この大会で得た悔しさを胸に、今後更なる躍進を見せてくれることを期待したい。

午前の部の後半に行われた男子50m平泳ぎでは、廣田真一(SB14/大阪およごう会)が出場。リオパラリンピック代表選%e4%b8%ad%e9%83%a8%ef%bc%92手の廣田には、他を圧倒する泳ぎが期待されたが、村松諒(SB14/ぺんぎん村)に競り負けまさかの2位に終わった。レース後、廣田は『悔しい』と心境を率直に吐露した。『モチベーションを上手く保てなかった』ことが敗因となってしまったと振り返り、今後はメンタル面の改善を施すことを誓った。

 

 午後の部の種目である男子200m自由形と男子100m自由形に出場したのは、4名の代表選手のうち最後に登%e4%b8%ad%e9%83%a8%ef%bc%93場した坂倉航季(S14/個人)だ。『待ち時間が長く、体が思うように動かなかった』という坂倉だが、どちらの種目においても素晴らしい泳ぎを披露し、好タイムを記録した。パラリンピックに向けて、『メダルを取れるか分からないが、ベストを尽くして頑張りたい』と語った。

 

リオパラリンピックを控え、その代表選手の活躍により、大きな盛り上がりを見せた今大会。彼らのパフォーマンスは、他の選手にも刺激を与えたはずだ。7月17、18日には横浜国際プールにて2016ジャパンパラ水泳競技大会が行われる。この大会においても、今大会のような熱戦が繰り広げられることを期待したい。

注記:第23回中部障がい者水泳選手権大会のプログラムにある障害区分の表記は以下の通りです。

障害区分

S1~S10:肢体不自由、S11~13:視覚障害、

S15:聴覚障害、M1~M6:知的障害者

知的障がい者クラス分け ( S14 )

M1:9才以下、M2:10~12才以下、M3:13~15才以下、M4:16~18才以下

M5:19~34才以下、M6:35才以上

記:広報インターン 小澤 光市(慶應義塾大学慶應スポーツ新聞会)

九州大会観戦記

2016年6月12日。朝からしとしとと雨が降りしきる中、大分県佐伯市市民総合プールにて九州大会が開催された。

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本大会はジャパンパラの選考会として開催され、基準タイムを超えた選手はジャパンパラの出場権を獲得する。地方大会といえども138名の選手が出場し、多くの応援団も来場し、会場は大盛況を見せた。

 

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選手宣誓の様子

全員が同じスタートラインではない。障がい者競技の選手は一人一人に異なる障がいがある。その固有の障がいの中で公正に競技を行うために、「クラス分け」を行う。これは選手達の泳ぎや実際に診察することによって行われ、同程度の障がいと診断された選手同士が競えるように調整できるものである。クラス分けで、泳法ごとに9〜10段階に分けられる。例えば平泳ぎで身体障がい者の場合、クラスはSB1からSB9までの9段階となり、数字が小さいほど重度の障がいとなる。それぞれに順位と記録、そしてジャパンパラへの出場権が与えられる。

 

クラス分け%e4%b9%9d%e5%b7%9e%ef%bc%93

一方で、視覚障がい者の場合も同様に、一人一人見え方は様々である。しかし、クラス分けを行うのではなく、「ブラックゴーグル」と呼ばれる視界だけでなく、光を完全に遮断するゴーグルを全員が装着する事で一人一人の選手の差を無くしている。この影響で、選手達は全く視界がない状態で泳ぐことになる。ここで問題になるのは「ターン」。視界がない状態でのターンは危険を伴う。これを解決するのが「タッピング」。介護者がターンの直前で先にスポンジがついた棒で選手の頭を叩いて「ターン位置の到来」を教える。

 

タッピング

しかしこのタッピングには技術が必要で、選手と息を合わせなければ成功しない。このタッピングで試合の記録が左右されることもある。%e4%b9%9d%e5%b7%9e%ef%bc%94

障がい者水泳の魅力を「陸上では自由に動く事が出来ないが、水中では手を動かせば動く事が出来るところ」と語ったのは1996年アトランタパラリンピックで金メダルを獲得した梶原紀子選手(SB4,S5ー福岡チャレンジャーSC)。ここ20年で1番変わったのは「認知度」。「アトランタ五輪ではメダル確実と言われている競泳陣はまさかのメダルなしで、一方パラでは8個の金メダルを獲得しました。そこくらいから障がい者水泳の認知度が段々高まっていったのかなって思います」(梶原)。

現在、日本全国を6ブロックに分けて地方大会を行っているが、その地方大会はさらに上位の大会、つまり、ジャパンパラ水泳競技大会や日本身体障がい水泳選手権大会に繋がっている。この為上を目指す選手達が大会に集結するようになった。当然選手達は切磋琢磨し、新たな高みへと駆け上る。このシステムが構築されてから日本の障がい者水泳のレベルは上昇した。

 

泳法 テクニック

健常者の水泳にはない障がい者水泳だからこその楽しさ、それは各選手が持っているテクニックだ。

平泳ぎを専門とする梶原選手は脚を使う事ができない。医者やコーチからは平泳ぎは脚で泳ぐものだから、出来ないと言われ続けていた。しかし、それでも続けたいと志願し、コーチ陣は「手だけでも進む平泳ぎ」を悩み抜いた末に考案した。「私も何百通りの泳ぎ方で泳がされたか覚えてないですけど、2年がかりくらいでようやく完成しました」(梶原)。まさに%e4%b9%9d%e5%b7%9e%ef%bc%95血反吐を吐く思いで生み出されたこの泳ぎ。脚を全く使ってないにもかかわらず驚くほどの推進力がある。このような「技術」は一人一人の選手が持っている。水泳が好きでたまらない気持ち。それに加えて一人一人の「自分だけの武器」を携えて試合に挑む。その勝負には目を奪われる。

また、障がい者水泳は幅広い年齢層の選手達が出場している。「ベストのタイムが出るように一生懸命練習してきた」と語ったのは福田果音選手(SB9,S9)。彼女はまだ10歳。本格的に大会に出場したのは今大会が初めてだ。しかし、初出場の大会で好成績を収めつつも、まだまだ上を目指す気持ちは一流選手と大差ない。このような若手選手も数多く出場した。この世代の選手は東京パラリンピックで活躍してくれるのは間違いない。

若手選手と、これまで日本の障がい者水泳を引っ張ってきたベテラン選手が同じ大会で切磋琢磨しあう環境が整っている。この状況が続いていけば、2020年にはこう呼ばれているだろう。

「水泳王国、ニッポン」と。

 

記:広報インターン 高橋廉太朗(慶應義塾大学慶應スポーツ新聞会)

第30回関東身体障がい者水泳選手権大会観戦記

 

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2016年6月11日、第30回関東身体障がい者水泳選手権大会が横浜国際プールで行われた。過去最多の選手が参加し、多くの大会新記録が樹立された。選手だけでなく、コーチや介助者も含めた全員が鼓舞し合う光景が多く見られ、温かみのある大会となった。

【さまざまな障がいがある選手たち】%e9%96%a2%e6%9d%b1%ef%bc%92

身体障がいには様々な種類があるため、障がいの種類や程度によってクラス分けがされ、同程度の障がいの選手同士でレースが行われる。そのため、足の力で泳ぐ選手もいれば逆に腕の力で泳ぐ選手もいる。また、障がいの種類によってスタートの仕方や折り返しの仕方も変わってくる。それぞれの選手がどのような障がいを抱えているかは一目でわからないことも多く、その点レースを見るのが難しいが、選手それぞれの強みを生かした、様々な泳ぎ方が一度に見られるのはとても面白い。

 

【タッピングバーを用いた視覚障がい者選手のターン

今大会には視覚障がいがある選手も多く出場した。視覚障がい選手は壁の位置を目で確認することができないため、写真のように介助者が折り返しの直前に棒で選手の体をたたくことがある。身体障がい者水泳ならではのこの光景に注目だ。

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【大会記録を更新!】

女子400m自由形・女子100m背泳ぎに出場し、100m背泳ぎで1分33秒37という記録で見事に大会記録を更新した鎌田美希(立教大学・S8)にインタビューを行った。彼女は生まれつき両膝から下がない。2014年のアジアパラリンピックにも出場するなど世界の舞台で活躍している。専門の400m自由形では2着に終わったものの、「100m背泳ぎでは中学生くらいから自己ベストが出ていなかったので、ベストが久しぶりに出て嬉しかったです。自信にはなりました」と話したうえで、今後に向けては「専門の400m自由形はまだ調子いい時のタイムに戻ってないのでジャパラ(ジャパンパラ水泳大会)に向けてタイムを伸ばせて行けたらなと思います」と話した。

 

記:広報インターン 伊藤 史織(慶應義塾大学慶應スポーツ新聞会)

東北大会観戦記

 

十人十色の努力の結晶が水面に輝いていた———。6月5日、宮城県利府町のセントラルスポーツ宮城G21プールで開催された「第26回東北身体障がい者選手権水泳競技大会」。各地区大会の中で最初に行なわれる本大会は、7月のジャパンパラ水泳競技大会、11月の日本身体障がい者水泳選手権大会の予選を兼ねた大会であり、参加標準記録を突破すればこの2つの大会に出場することができる。

 

先陣を切ったのは男子200m個人メドレーの大島茄巳琉(S10・栃木とびうお)。中学1年生ながら、大会記録に迫る力強い泳ぎを見せた。本人は「いいタイムは出てない」と納得はしていなかったものの、「水泳は楽しい」と笑顔で話%e6%9d%b1%e5%8c%97%ef%bc%91した。男子100m自由形の第2組に登場した冨樫航太郎 (S6・北海道身障SC)は「気持ちで持って行った」という泳ぎで大会新記録をマークした。しかし、「もうちょっと伸びると思った」と話し、これからの活躍に期待を抱かせてくれた。

 

 

%e6%9d%b1%e5%8c%97%ef%bc%92続いてインタビューしたのは男子50mバタフライに出場した三井隆汰 (S6・峰村PSS東京)。同じチームに所属する田中正幸 (S6)に惜しくも及ばず2位となったが、「ジャパンパラに向けて課題が見えてきた。自分の泳ぎをしていい結果が出るように努力していきたい」と語った。

 

最後に話を聞いたのは、大会の最後を飾る競技200mリレーで優勝した東京DACチームの山内七重(S8)、蔵重ゆかり(S15)両選手。第1泳者の増山一雄 (S21)の作った大きなリードを保っての勝利にホッとした様子だった。聴覚障がいは泳ぐということに支障がないように思えてしまうが、大きい不安を持って臨んでいるということが初めて分かった。

クラス分け 

種目ごとに選手が泳ぎ順位もつく。しかし、ほとんどの選手が金メダルを獲得している。参加人数が少なく、種目数が多いということもあるが、それ以上に障がいの種類や程度によってクラス分けされていることが大きな要因だ。そのクラスごとに順位を決めるため、金メダルを獲れる選手も増えてくる。それが選手のモチベーションになっているのかもしれない。ベテランの選手も多数見受けられるのも、「体力の限界まで楽しんでやりたい」という気持ちが強いからに違いない。各選手にフォーカスを当てると、同じランクに属していても障がいのある部位やその働きがそれぞれ異なるのがわかる。逆に素人目には同じ障がい%e6%9d%b1%e5%8c%97%ef%bc%93を持っているのにクラスが違う、選手たちを比較して障がいが軽そうな選手の方が実はクラスが上、ということがある。しかし実際泳ぎを見るとやはりスピードの差というものが出てくるものである。このように障がいの度合い、障がいのある部位が違うため、各選手の泳ぎ方には特徴というものが現れてくる。それが十人十色たる所以だ。

さらにこれらの地方大会では年齢別の区分けはない。経験と体力が大きく結果につながってくる。それでも小学生くらいの若い選手と還暦を超えているようなベテランの選手が同じプールで、時に対等に泳ぎ合う姿はパラ水泳特有なのかもしれない。

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今大会では大会新記録が41個更新された。時代が移りゆく中で新しい泳法の技術の進歩もあるが、大会に参加する選手が少しずつ成長していることも大きいだろう。今はまだ若い選手たちが、さらに伸びていき4年後に東京で歓喜の瞬間を迎えられたら嬉しい。選手たちのオンリーワンにも注目したうえで、この先を見ていきたいと思う。

 

記:広報インターン 尾崎 崚登(慶應義塾大学慶應スポーツ新聞会)